重点施策
・ 「賃上げと投資が牽引する成長型経済」を実現することで、日本の経済の未来を創り、日本経済を守り抜く。デフレからの脱却を確実なものとするため、3年間の集中的な取組が必要との認識の下、Ⅰ.物価高の克服、Ⅱ.日本経済・地方経済の成長、Ⅲ.国民の安心・安全の確保を 3本の柱として、総合経済対策を取りまとめることとしている。
・ 本年 6 月21日に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024 年改訂版」(以下、
「実行計画 2024」という。)が閣議決定され、今後具体化が必要な項目が示された。総合経済対策における「Ⅱ.日本経済・地方経済の成長」のうち、早期に実施することで「新しい資本主義」を発展・加速をさせるべき施策を下記のとおり取りまとめる。
1.中堅・中小企業の賃上げ環境の整備
(1)労務費の適切な価格転嫁
・ 大企業における高い賃上げの動きが中小企業・小規模企業に広がっていくためには、労務費の価格転嫁が鍵の一つ。
・ 民間の調査会社によると、多少なりとも価格転嫁ができている中小企業は、2022 年 12 月時点で 69.2%であったが、2024 年2月時点で 75.0%に上昇。他方、価格転嫁が全くできないと回答した企業も比率が減少しているとはいうものの(15.9%→12.7%)、残っており、転嫁対策の更なる徹底が必要。
・ 中小・小規模企業の取引適正化のため、価格転嫁の基本的な法律である下請代金法の制度改革も含め検討を進める。
〇 「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の徹底に向け、各所管省庁において、各業界団体と連携し、指針の内容を踏まえて策定・改定された自主行動計画の徹底やそのフォローアップを実施させるとともに、指針の遵守状況についての実態調査及びその結果に基づく改善を年末までに完了させる。また、公正取引委員会と中小企業庁は、指針の遵守状況に関する調査結果を踏まえ、独占禁止法と下請代金法に基づき厳正に対処する。加えて、労務費の価格転嫁をさらに促進させるために、パートナーシップ構築宣言の拡大と実効性の向上を進めていく。
〇 適切な価格転嫁を我が国の新たな商慣習としてサプライチェーン全体で定着させるため、下請代金法について、コスト上昇局面における価格の据え置き等の事案や荷主・物流事業者間の取引にも適用できるようするとともに、事業所管省庁と連携した執行を強化するため事業所管省庁の指導権限を追加する等の改正を検討し、早期に国会に提出する。
〇 下請代金法の執行強化を図る。具体的には、適切な価格転嫁を我が国の新たな商習慣としてサプライチェーン全体で定着させるため、公正取引委員会においては、事業所管省庁とも連携した執行を強化するための体制整備を図る。また、中小企業庁においては、「下請Gメン」(下請事業者に戸別訪問し取引実態の把握を行う調査員)に加え、新たに、「下請かけこみ寺」(中小企業の取引トラブルの相談窓口)の調査員との連携により、中小企業の取引実態に関する情報収集体制を強化し、問題ある発注事業者の情報を追加的に収集するなど、政府が把握する取引情報を、下請代金法の執行において効果的に活用する。
〇 グリーン、デジタル等の分野を中心に、取引慣行等について、公正取引委員会は、新たに実態調査を実施し、その改善提言(アドボカシー)等を行う。そのため、情報技術、情報セキュリティ、経済分析等の専門性を有する人材の公正取引委員会への登用を進める。
・ 中小・小規模企業の生産性向上を図る上で、AI、ロボットなどの自動化技術の利用・活用が不可欠。また、こうした自動化技術は省力化に資することから、人手不足対策としても有効。政府を挙げて支援を加速する。
(2)付加価値の向上や省力化に資する投資の推進
〇 中小・小規模企業による生産性向上のための設備投資・IT導入・販路開拓・円滑な事業承継等を支援する中小企業生産性革命推進事業(ものづくり補助金、IT導入補助金、持続化補助金、事業承継・引継ぎ補助金の4補助金の総称)について、中小企業のDXを強力に促進し、また、その生産性向上と成長を加速する観点から、更なる充実を図る。
〇 中小企業において AI/ロボット等の省力化投資が進むよう、簡易な手続きで省力化効果の高い汎用製品をカタログから選ぶ、カタログ式の省力化投資補助金の対象機器の拡充等による使い勝手の向上を図る。
〇 地域の雇用を支える中堅・中小企業が行う、成長に向けた国内外の需要開拓に必要な大規模な省力化設備や工場等へと投資する等の支援を、地域における生産性向上、賃上げ促進を一層図る観点から、更に進める。加えて、中小・小規模企業の成長・重点市場への進出等を支援する。
〇 生産性向上に資する設備投資による業務改善等を行う中小・小規模事業者を支援するため、業務改善助成金(業務改善のための経費を助成)の充実を図る。
〇 賃上げ促進税制について、本年4月から強化された①赤字中小企業の活用を可能 とするための5年間の繰越控除制度の創設、②地域において賃上げと経済の好循環の担い手と期待される中堅企業向けの新たな枠の創設等の内容の周知徹底を行い、更なる活用を進める。
〇 人手不足感の強い業種において AI、ロボットの導入や DX を始めとする省力化投資を推進するため、各事業所管省庁において加速的に検討を進め、早急に省力化投資の具体的プランを策定する。
〇 人手不足が深刻な物流分野における生産性向上を図るため、荷主・物流事業者が荷待ち・荷役時間の削減や倉庫業務の省力化のためにトラック設備(クレーン・昇降装置)・予約システム・自動倉庫等を導入することを支援する。また、物流分野の GX・ DX に加え、トラック運送から鉄道・海運等の大規模輸送への円滑な接続・転換(モーダルシフト)を推進するなど物流分野の構造転換を加速するとともに、荷主・物流事業者の悪質な行為を是正する「トラック G メン」の活動を強化する。
〇 人手不足が深刻化する建設分野の処遇改善・生産性向上を図るため、改正建設業法に基づき、技能労働者の処遇改善を図るとともに、ICT を活用した現場管理の「指針」を国が示し、それに沿った生産性向上等への積極的取組を求めるなどデジタル化を推進するほか、受発注者の取引実態を実地調査する「建設Gメン」の取組を推進する。
〇 物流、介護、建築など人手不足の現場で使用されるロボットについて、ハード・ソフト両面の開発を促進する。
〇 保育所等における保育士等の業務負担の軽減等を図るため、業務の ICT 化等を行うためのシステムの導入等を支援する。
〇 介護や障害福祉、医療の現場の生産性向上を図るため、介護テクノロジーの開発・実証・普及のプラットフォームの発展的見直し・運営や、事業者における介護ロボットや ICT(見守りセンサー等の情報連携ネットワーク等)、社会課題解決に資する AI 等のデジタル技術を活用した機器・サービス等の活用を推進する。
〇 令和6年度報酬改定で措置した医療・介護・障害福祉分野の現場で働く方の処遇改善を図るための措置を確実に届けるとともに、更なる賃上げに向けて、生産性向上・職場環境改善を支援する。
(3)事業承継、M&A を通じた産業革新
・ 後継者が不在の企業のうち7割以上は黒字企業であり、黒字企業であっても、後継者が不在であるために廃業に至る可能性がある。承継者については、近年、同族承継が低下し、企業内部からの昇格や M&A による外部からの就任が増加している。また、M&A は、従業員 1 人あたり売上高を伸ばし、複数回実施すると売上、利益、労働生産性、成長指標(修正 ROIC)が上昇することが確認されている。
・ このため、事業承継税制や中堅・中小グループ化税制等、予算・税制措置を最大限に活用することにより、中小・小規模企業の多様な事業承継や M&A・グループ化を推し進め、成長・生産性向上を一層促進する。また、経営人材の確保について官民を挙げた広範なマッチングを進める。
〇 47都道府県に設置している事業承継・引継ぎ支援センターにおいて、後継者不在の中小企業・小規模事業者と譲受を希望する事業者とのマッチングや、事業承継計画の策定を支援する。
〇 売上高 100 億円超の中小企業(100 億企業)への成長を志向する中小企業へのリスクマネーの供給等を通じて、100 億企業の創出を促進する。
〇 事業承継税制の特例措置の役員就任要件(実際の承継時に、後継者が役員に就任して3年以上経過している必要があるという要件)について、現行では、特例措置を利用する場合、本年12月末までに後継者が役員に就任している必要があるが、来年以降に事業承継の検討を本格化させる事業者にとって、本年12月までに後継者を役員に就任させることは困難であり、事業承継税制を最大限活用する観点から、当該要件の見直し等を検討する。
〇 M&A 後の成長に向けた円滑な経営統合 (PMI:Post Merger Integration)の取組の定着を図るため、PMI におけるポイントを解説する「中小 PMI ガイドライン」や PMI の実施時に活用できる「PMI 実践ツール」の浸透を図るとともに、事業承継・引継ぎ補助金において、PMI への支援を行う。
〇 経営者の判断により事業再構築を進めることができるよう、金融債権者全員の同意がなくても、多数決により金融債務の減額を可能とする法案を早期に国会に提出する。
〇 既存債務に経営者保証が残っていることが事業承継や M&A の障害とならないよう、メインバンク等が事業再構築や M&A を仲介・支援していく際、経営者保証を見直す枠組として、金融機関向けの総合的な監督指針において、融資先の中小企業等において M&A や事業承継が行われることを把握した場合に、どうすれば経営者保証の解除の可能性が高まるか等の説明を行うことを求める改正を行ったところ(本年8月末改正、10月施行)、その遵守徹底を図る。
〇 事業者が、不動産担保等によらず、事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくなるよう、企業価値担保権の創設等を内容とする「事業性融資の推進等に関する法律」(2024 年 6 月成立)の円滑な施行に向けて、政府令等の整備や、実務上の課題について議論を行うなどの環境整備に取り組むほか、企業価値担保権の制度趣旨等に関する周知・広報等に取り組む。
・ 積極的な人への投資により、年齢、性別、雇用形態、障害の有無を問わず、能力を発揮して働ける環境整備が重要。
・ 三位一体の労働市場改革(①リ・スキリングによる能力向上、②企業の実態に応じたジョブ型人事、③成長分野への労働移動)を進め、我が国企業が、能力ある若手や、労働意欲のあるシニア層に、労働機会を提供できるようにする。また、人手不足が目立つ現場を支える現場人材についても、スキル標準の整備等を通じ、ノウハウのある労働者が高い賃金を得られる構造を作り上げる。
・ 非正規雇用労働者については、賃上げのために同一労働・同一賃金制の施行を徹底するとともに、正規化を促進する。
(4)人への投資と労働市場改革の早期実行
<リ・スキリングによる能力向上>
〇 人手不足分野等への労働移動や賃上げの促進を図るため、業界団体・個別企業が策定する民間検定を政府が認定する新たな枠組みにより、技能検定等の既存の公的資格ではカバーできていなかった産業・職種のスキルの階層化・標準化を進めるとともに、これらのスキルの習得講座を教育訓練給付の対象に追加して支援を行う。
〇 官民のキャリアコンサルタントがキャリアアップを目指す労働者に対して指導・助言を行う際に参考とできるよう、民間のデータ会社等の協力を得て、広範かつ詳細に民間の求人情報を調査し、まずはニーズの高い職種等から本年度内にその職種の求人動向や賃金水準の情報提供を開始し、来年度以降、職種等の拡大やハローワークの保有する情報との集約を進める。
〇 2029 年までに、約 5,000 人の経営者等の能力構築に取り組むため、地域の産学官のプラットフォームを活用したリ・スキリングの対象に経営者を追加する。また、2025年度中に約 3,000 人の参加を目指して、大学と業界が連携して、最先端の知識や戦略的思考を身に付ける、実践的なリ・スキリングプログラムの開発を支援する。
〇 デジタルスキル標準の整備等を通じてデジタル技術についての継続的な学びを実現するとともに、地方における若手人材の育成・確保等、デジタル人材育成を加速する。
<企業の実態に応じたジョブ型人事>
〇 労働者が自ら職務やリ・スキリングの内容を選択するジョブ型人事の導入促進のため、導入目的・範囲、雇用管理・報酬制度、労使コミュニケーション等について多様な導入企業の事例が詳細に掲載された「ジョブ型人事指針」(本年8月策定)の周知・普及に取り組む。
<成長分野への労働移動>
〇 大企業から中堅・中小企業への新しい人の流れの創出を後押しする観点も踏まえ、レビキャリ(REVIC(株式会社地域経済活性化支援機構)が整備する地域企業に関心のある大企業社員等の情報を登録した人材プラットフォーム)の活用を促進し、中堅・中小企業の生産性向上にも繋げる。
<フリーランスの保護>
〇 フリーランス・事業者間取引適正化等法が本年 11 月から施行されることに伴い、フリーランスの取引適正化及び就業環境整備を図るため、同法に違反する事案に対して迅速かつ適切に対処するとともに、公正取引委員会、中小企業庁及び厚生労働省の執行体制の整備を行う。
<最低賃金>
- 最低賃金の今後の中期的引上げ方針について、早急に、政労使の意見交換を開催し、議論を開始する。
以下省略