令和7年度補正予算「医療・介護等支援パッケージ(介護分野)」

政府が公表した「令和7年度補正予算案の主要施策」の中で、介護事業者にとって最もインパクトが大きいのが「医療・介護等支援パッケージ(介護分野)」です。

令和7年度厚生労働省補正予算案の概要

介護分野だけで2,721億円が計上されており、

  1. 介護職員の賃上げ・職場環境改善

  2. 介護事業所・施設のサービス継続支援

  3. 介護テクノロジー導入・協働化・経営改善支援

  4. 訪問介護・ケアマネジメントの提供体制確保支援

という4本柱で構成されています。


1.介護職員の賃上げ・職場環境改善(1,920億円)

① 目的は「他産業と遜色ない処遇」への橋渡し

介護職員の賃金は累次の処遇改善で一定程度は上がってきたものの、
なお他産業との賃金差が残っているというのが国の問題意識です。

そこで、令和8年度介護報酬改定を待たず、人材流出を防ぐための「緊急対応」として今回の賃上げパッケージが組まれています。

② 賃上げの中身

施策の中身は大きく3段階です。

  1. 介護従事者への幅広い賃上げ支援

    • 介護従事者に対して「月1万円」の賃上げ相当額を支援

  2. 生産性向上・協働化に取り組む事業者への上乗せ支援

    • 上記に加え、

      • ICT活用・生産性向上、または

      • 経営の協働化・大規模化に取り組む事業者には、介護職員に月0.5万円の上乗せ

  3. 職場環境改善への支援(人件費に振り替え可)

    • 職場環境改善に取り組む事業者に対し補助

    • これを人件費に充てた場合、介護職員に月0.4万円の賃上げに相当

対象期間は、

令和7年12月〜令和8年5月の6か月分の賃上げ相当額と明確に区切られています。

③ どんな事業所が対象になるか

  • 処遇改善加算対象サービス

    • 処遇改善加算を取得している事業所が前提

  • 加算対象外(訪問看護・訪問リハ・ケアマネ等)

    • 処遇改善加算に準ずる要件を満たす(または満たす見込み)の事業所

さらに上乗せを取るには、例えば以下のような追加要件が求められます:

  • 訪問・通所系

    • ケアプランデータ連携システムへの加入等

  • 施設・居住系

    • 生産性向上加算ⅠまたはⅡの取得 等

結論:
このメニューを最大限活用するには、

  • 処遇改善加算・生産性向上加算

  • データ連携・ICT導入を「一体として進める」ことがポイントです。


2.介護事業所・施設のサービス継続支援(510億円)

大きく分けて、

  • ① 設備・備品や移動経費等への支援(278億円)

  • ② 介護保険施設等の食材料費支援(210億円)

  • ③ 老朽施設の改修・大規模修繕支援(22億円)

という構造になっています。

① 設備・備品・移動経費への支援(事業所向け)

ねらい:
物価高騰の中でも、訪問・通所・施設がサービスを止めずに継続できるよう、将来的に必要となる設備・備品の購入や移動経費を補助。

補助上限額のイメージ:

  • 訪問介護・通所介護以外の介護事業所

    • 1事業所あたり 20万円

  • 訪問介護

    • 延べ訪問回数等に応じ、20〜50万円/事業所

  • 通所介護

    • 延べ利用者数に応じ、20〜40万円/事業所

  • 施設系(特養・老健・介護医療院等)

    • 定員1人あたり 6千円

対象経費の具体例:

  • 訪問・送迎に伴う移動経費

  • 熱中症・寒さ対策:

    • ネッククーラー、冷感ポンチョ、スポットエアコン、サーキュレーター、断熱カーテン等

  • 災害時の備え:

    • 飲料水・食料品等の備蓄(ローリングストック初期費用)

    • ポータブル発電機・蓄電池、簡易トイレ、簡易浄水器、衛生用品 等

② 食材料費への支援(施設向け)

特養・老健・介護医療院等の食材料費の高騰対策として、

  • 定員1人あたり 1.8万円を補助(食材料費に限定)


3.介護テクノロジー導入・協働化・経営改善支援(220億円)

① 背景:2040年に「▲20%以上の業務効率化」が前提

資料では、

「2040年に▲20%以上の業務効率化が必要」
と明示されており、介護テクノロジー導入と経営の協働化は“必須課題”として位置づけられています。

② 支援の中身(3層構造)

  1. テクノロジー導入による生産性向上

    • 見守り機器

    • 介護記録ソフト

    • インカム

    • Wi-Fi環境整備
      など、業務時間削減効果が確認されている機器を優先的に支援
      導入だけでなく、「業務フロー見直し・研修」など定着のための費用も対象。

  2. 小規模法人を含む“協働化”等の支援・経営改善モデル事業

    • 共同採用・合同研修・事務集中化

    • 協働化に合わせた老朽設備更新

    • WAM(福祉医療機構)と連携した経営分析・経営改善支援

  3. 都道府県による伴走支援の強化

    • ICT導入や協働化に不慣れな小規模事業所を中心に、
      “伴走しながら一緒に改善する”体制づくりを支援。

補助率イメージ:

  • テクノロジー導入・協働化等:

    • 国・都道府県 4/5、事業者 1/5 負担

  • 地域全体の普及・伴走支援:

    • 国・都道府県 10/10 等(詳細は要綱で確認)


4.訪問介護・ケアマネジメントの提供体制確保支援(71億円)

① 課題認識

訪問介護等は、

  • 慢性的な人手不足

  • 燃料費高騰

  • 事業者の経営難・廃止

に直面しており、在宅介護の根幹が揺らぎかねない状況です。

② 支援メニューのイメージ

都道府県・市町村が、地域の実情に応じて柔軟に組み合わせられる“総合対策”となっています。主な例は以下のとおりです。

  1. 訪問介護事業所の人材確保・育成支援

    • 経験の浅いヘルパーへの同行支援

    • 常勤化へのインセンティブ

    • 採用活動や研修体制の整備

  2. タスクシフト・タスクシェア推進

    • 訪問介護事業所と地域の多様なリソース(地域団体等)との協働モデルの構築

    • 業務の役割分担ルール策定 など

  3. 中山間地域等での“訪問機能”拡充

    • 問事業所が存在しないエリアで、
      通所介護事業所等に訪問機能を追加するための伴走支援・初期費用助成・導入後一定期間の支援

  4. サテライト(出張所)設置支援

    • 広域・中山間地域でのサービス提供を支えるため、
      サテライトの設置に対する伴走支援・初期費用助成・設置後支援


介護事業者が「今」やっておきたい5つの準備

最後に、実務的なチェックポイントを5つ挙げます。

1.自事業所が対象となるメニューの“仕分け”

  • 自社のサービス種別(訪問・通所・施設・居宅)

  • 処遇改善加算・生産性向上加算の取得状況

  • ICT導入状況・協働化の構想の有無

これらを整理し、どの補助メニューを取りに行くかをまず決めることがスタートです。

2.賃上げシミュレーションと賃金テーブルの検証

  • 「月1万円+0.5万円+0.4万円」のフル活用を前提に、

    • どの職種・勤続年数帯をどの程度引き上げるのか

    • 令和8年度改定後も破綻しない賃金カーブになっているかを早めにシミュレーションしておくべきです。

3.テクノロジー投資の優先順位付け

  • 介護記録ソフト

  • 見守り機器

  • インカム・スマホ・Wi-Fi
    これらは効果検証済みとして国が名指ししている分野です。

「どの事業所から」「どの機能から」「どのベンダーで」導入するか、
年度内の投資計画として整理しておくと、補助金の公募に乗りやすくなります。

4.災害対策・熱中症対策を“補助金前提”で見直す

  • 備蓄(食料・水)

  • ポータブル電源・発電機

  • 簡易トイレ等

  • 熱中症・寒さ対策機器

「いつかやらなければいけないこと」を、今回の補正を利用して前倒しする――
この視点で見直しを掛けると、投資判断がしやすくなります。

5.都道府県の実施要綱・スケジュールの情報収集

最終的には、都道府県の実施要綱・公募要領が“実務のルール”になります。

  • 県のホームページ

  • 各種説明会・オンラインセミナー

  • 業界団体・専門家からの情報

これらを通じて、受付開始時期・締切・必要書類・評価ポイントを早期に把握しておくことが重要です。

今回の「医療・介護等支援パッケージ(介護分野)」は、

  • 賃上げ

  • 職場環境改善

  • サービス継続

  • テクノロジー導入・協働化

  • 訪問・ケアマネ体制の維持