介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドラインについて
■ 事故は“ゼロにできない”。しかし「減らすこと」はできる
介護施設はあくまで「生活の場」です。
そのため、専門的なケアを提供しても、
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転倒
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誤嚥・窒息
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異食
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誤薬
などの事故は一定の確率で発生します。
厚労省もガイドラインの中で、
防ぐことが難しい事故があることを本人・家族に説明し、理解を得ることが不可欠
と明言しています。
一方で、
「対策を取り得る事故」はゼロにする
ことが求められています。
つまり、すべての事故を防ぐことは不可能でも、
“防げたはずの事故”は絶対に減らさなければならないということです。
■ 組織全体で取り組むリスクマネジメント
事故予防は、個人の技量や経験任せではなく、組織の仕組みとして構築するものです。
● ① 管理者が理念と方針を明確にする
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「事故はゼロにはできないが、防げる事故はゼロにする」
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「個別アセスメントを徹底し、ヒヤリを報告しやすい環境をつくる」
など、管理者がリスクマネジメントの方向性を明確に示すことが出発点です。
● ② 委員会の機能強化
事故防止委員会が中心となり、以下を一元管理します。
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ヒヤリ・ハットの収集
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傾向分析
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再発防止策の決定
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対策の周知
委員会は多職種で構成し、偏りのない視点で改善策を検討することが重要です。
● ③ 指針・手順書の整備
事故防止のための業務手順書を整備し、全職員が迷わず同じ手順でケアを実施できる体制をつくります。
記載内容は、実態に合わせて定期的にアップデートすることが必要です。
■ 入所・利用初期こそ事故が最も起きやすい
ガイドラインで特に強調されているのが、
「サービス利用開始直後は事故が最も発生しやすい」
という事実です。
理由は明確です。
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環境が変わり、本人の動きに変化が出る
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職員がまだ行動パターンを把握できていない
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不安や混乱により注意力が低下する
したがって、入所初期は下記が必須となります。
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家族・ケアマネからの詳細な事前情報収集
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多職種アセスメント(心身機能・口腔・生活動線)
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居室環境の調整(ベッド位置・動線・手すり)
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初週の密な観察・記録
この期間を徹底できるかどうかが、事故発生率を大きく左右します。
■ ヒヤリ・ハットは“宝の山”
ガイドラインでは、ヒヤリ・ハットを「重大事故を防ぐための最重要情報」と位置付けています。
1件の重大事故
‖
29件の軽微な事故
‖
300件のヒヤリ・ハット
いわゆる「ハインリッヒの法則」です。
ヒヤリを蓄積し、
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発生場所
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時間帯
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原因
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職員配置
などを分析すれば、事故の芽を事前につぶすことができます。
ただし、ヒヤリ報告が増えない理由の多くは、
「責められる・評価が下がるのが怖い」
という職員心理です。
したがって、管理者の役割は、
“報告した職員を褒める”文化をつくること。
これがガイドラインの核心です。
■ 事故発生時のポイントは「迅速・正確・誠実」
事故は必ず“初動”で結果が決まります。
1.安全確保と応急処置
看護職員と連携し、バイタル確認・受診判断を迅速に行います。
2.管理者・家族への連絡
事実を正確に、推測を混ぜずに伝えることが重要です。
3.記録(事実と推論を分ける)
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何時何分に
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どこで
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誰が
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何をしている最中に
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どう発見したか
を“事実のみ”で記録します。
4.多職種での原因分析
根本原因分析(RCA)を用いて、
「人・物・環境・組織」
の観点から分析します。
5.再発防止策の検討と周知
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マニュアル化
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研修
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手順の見直し
まで落とし込みます。
■ 事故は“説明責任”がすべて
事業者が負う最も重い責任は、
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事前のリスク説明責任
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事故発生時の説明責任
です。
十分な説明・記録・分析があれば、法的リスクは大幅に軽減できます。
逆に、説明不足はトラブルの最大の原因になります。
■ まとめ:事故防止は「仕組みづくり」
介護施設で事故をゼロにすることはできません。
しかし、
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個別アセスメント
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委員会運営
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ヒヤリ活用
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手順書整備
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家族連携
これらを組織的に行うことで、「防げる事故」は必ず減らせます。
事故予防は、介護の質そのものです。
ガイドラインを施設運営に落とし込み、安全で質の高いサービス提供につなげていきましょう。